04 南 | back | next | top |
雅美が食堂で亜久津にも額を寄せていたので、そりゃ生徒の手前まずいだろ、と思って慌てて注意しに行こうとしたら、その前に太一が雅美にタックルを喰らわせていた。 ――生徒の手前、もっとまずい。 太一のやつ、まだ学生気分が抜けてないのか……。 そう思いつつも新任だし、まだ不慣れなのはわかっていたので、やんわりと注意しておいた。 「確かに東方先生の行動も誤解を招きそうだったけど、壇先生がタックルするのはまずいと思うんだ。あと、学校ではいちおう『先輩』じゃなくて『先生』な」 「はい、すみませんです……」 ややしょげ気味に去っていく太一を見て、言いすぎたのか心配になったら、亜久津が小さく「悪ぃ」と俺に囁く。 「……もし落ち込んでるようならフォロー頼む。俺こそ悪かったな」 黙ってうなずいて、亜久津は太一の後を追ってくれた。 「……で、東方先生」 二人を見送って、雅美に向き直る。 「ああ、悪い。不注意だった。生徒にはしないから安心してくれ、南くん」 長年ダブルスを組んでいる相方だ。 言葉が少なくても俺の言いたいことをすべて汲んで、正確に返してくれる。ありがたい。 また、近ごろ生徒だけじゃなくて、職員室の面々も少し五月病気味かもしれない、と言うと、雅美もそれには気づいていたようだった。さすが保健医。 「教師は生徒の規範になるべきだとは思うんだが、でも教師も人間だからな。そのへんが……」 「ああ、兼ね合いは難しいな」 「だよなぁ……」 悪いと思いつつ、雅美の前ではついため息も出てしまう。 ――ああ、だめだな。俺まで引きずられてちゃ。 消化に良くないと思ったので、たわいもない話に切り替えた。 放課後、職員室で千石が「ねぇ南ー、テスト前になっちゃうとみんないろいろあるかもしんないからさー、今週末に山吹中教職員飲み会! どう?」と訊いてきた。 生徒はいないから、呼び捨ても大目に見る。 お祭り人間の千石は、たいてい幹事役である。……といっても、会計は俺や雅美がすることが多いんだけど。 俺はあまり酒に強くないから、雅美のほうが多いかな。 ――それはともかく。 確か俺は予定はないはずだし、ちょっとくらいそういうイベントがあれば、職員室の面々も浮上するかもしれないな、と思った。 「ああ、俺は別にいいけど。ちゃんと人数集めろよ」 俺が言うと、千石は元気に敬礼する。 「りょーかーい! よーし、がんばるぞー☆」 「……授業をがんばるって意味だろうな?」 「ん? うん、それもあるよん♪」 まぁ、この回答を引き出せただけでも良しとするか。 ――雅美は一緒に行ってくれるかな。 |
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