06 南backnexttop
 朝から雨が降っていても、傘をささずに学校に来るやつがいる。
 しかも、なぜか上機嫌。

 今朝も雨が降っていた。
 またいつもの奇行が見られるんだろうな……と思っていると、案の定そいつに声をかけられた。
 「お〜はよ〜♪ やぁ南先生、元気か〜い? あ、今週末の飲み会行く〜?」
 「い、行くけど……新渡米、お前……」
 口調とは裏腹な濡れねずみ姿に、思わず「先生」をつけるのも忘れる。
 授業にはいちおう身体を拭いて出ているようなので、風邪は引かないように気をつけているんだろうし、わざわざ注意するほどのことでもないんだが……ないんだけど……。
 そして、昼ごろまで雨が続いていると、目に見えて元気がなくなる。朝の上機嫌はいったいどこへ行くんだろう。

 今日も放課後、明らかに顔色の悪くなった新渡米がふらふら職員室を出ていくので、保健室に行くなら付き添っていこうと思って、後をついていった。
 「新渡米先生……?」
 声をかけてはみたがまったく気づかないようで、新渡米は保健室とは別の方向に向かう。
 ――理科室に忘れ物でもしたのか?(新渡米は理科担当教師である)
 そう思ったけれど、新渡米は理科室も通りすぎ、なぜかふらふら音楽室に入っていく。
 音楽室からはピアノの音がするので、音楽担当の喜多はそこにいるのだろう。
 ――そういえば、ちょっと前に雅美が「雨の日は新渡米がよく音楽室に行ってるみたいなんだが……」と言ってたっけ。
 そのときはそんなに気にもとめてなかったけど……今こうして見ると、本当に何をしてるんだろう。
 そうは思ったけれど、「音楽室と社会科教師(俺)、しかも理科教師(新渡米)も」というミスマッチな状況に気づいてしまうと、なんとなく堂々と入っていけない気がして、俺はそっと音楽室をのぞいてみた。 
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