| 30 南 | back | next | top |
| 中間テスト打ち上げ飲み会もたけなわ。 いつものようにキス魔と化している新渡米を、今回は「そういうのは大事な人に取っておけよ」と軽くいなしていると、こちらに席を移動してきてしばらく飲んでいた千石が、「南ちゃんさー、雅美ちゃんにお仕置きプレイしたいの?」と小声で笑った。 さっきの学校でのやり取りを踏まえた質問だろうが、突拍子もないことを言うので、思わず「はぁ!?」という大声が口をつく。多少騒がしいいつもの居酒屋だから、周りの注目をさほど集めなくて済んだけれど。 「落ち着いて、じょーだんだよ、じょーだん☆」 軽くウィンクしてみせる。うちの学校の教師達は、錦織と千石をはじめ、こういう仕草が様になるヤツが多いな……いや、亜久津のは見たことないけど。 「『人の恋路をジャマするヤツは、馬に蹴られて……』って言葉があるので、キヨスミくんは基本的に黙ってますが」 千石は自分のグラスに焼酎をそそぎ、レモンの薄切りを箸で器用にひねって絞ってみせた。合コンで女の子の注目を浴びるために練習した、と以前言ってた技だ。 そうして果汁を加えたグラスを口に運びながら、そっと笑う。 「南ってさ、いっつも人のことばっかでしょ。もう部長じゃないんだよ? 今は主任かもしれないけど、二十四時間主任じゃなくていいの。まあ、人のことばっかってのは東方も一緒なんだけどさー……あっはは、似た者ダブルスってやつ?」 あくまで独白のように呟き、だがにこやかにグラスを傾けていた千石に、他のところから声がかかる。 「はいはーい、今行くよー!」 軽く応じて立ち上がった千石は、「ま、今さらなんだけど、がんばってよ。……地味ーズがうまくいってないと、からかうこっちも楽しみがないんだから」と囁く。 「バーカ、早く行けよ」 ――わかってる。でも、サンキューな。 副音声で言って、俺は千石をこづく。中学時代と変わらない笑みが、抑えられなかった。 っていうか黙ってないと思うけど、ありがたいからツッコまないでおいてやるよ。 今日の飲み会の前、雅美に「今日はうちに泊まりに来て欲しいんだ。桜井が置いてった焼酎があるんだけど、俺一人じゃ飲まないからさ」と声をかけた。 いつもなら「良かったら泊まりに来ないか?」と、最終的な判断は雅美に任せるような言い方をしてしまうんだけど、今回はそれじゃ意味がない。――と言いつつ、桜井の焼酎を口実にしてしまうところが、俺の潔くない部分なんだが。 そして、まだ具体的な形にはなってないけれど、店に来る前に寄った場所でもらった紙が、俺のポケットの中にある。 果たして、雅美は俺の部屋に来た。 雅美のために、焼酎を出して氷を出してグラスを出して。 自分のグラスには焼酎ちょっぴりとウーロン茶を思いきり注いで。俺は酒は弱いけど、少しでも雅美と同じものを味わいたい気分だったから。 一口飲んで(酒の勢いを借りて言ってるとは思われたくなかったから、一口でやめておいたんだけど、千石や錦織あたりには「南は酒に弱いからな!」と茶化されそうだな、とは思った)、俺は「ごめん!」と雅美に頭を下げた。 「俺は、自分が不器用だってことは知ってる。それをカバーできる力がまだないことも。だから雅美に迷惑をかけてると思うんだけど、しばらく待って欲しい」 「距離を置こう」という言葉の説明としては不足かとも思ったけれど、長年のダブルスパートナー、いやそれ以上の存在の相手には、その補足解釈くらい期待してもいいかな、と考えた結論である。 眼鏡の奥の瞳は返答を考えるようだったが、俺はそれを待たずに考えていたセリフを一気に続けてしまった。 「でも、今回学校であんな……あんなことをしてしまったのは、俺にも、たぶん、そういう気持ちがあったんだと思う! だからその、俺の落ち度でお前に借りを作ったから、そのペナルティはお前に任せるっ!」 俺は一息に言い放ち、雅美の目を見つめた。 |
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